大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 昭和52年(ワ)344号 判決 1979年4月27日

原告 大友秀男

被告 国

代理人 佐渡賢一 阿部啓 ほか五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実<省略>

理由

一  原告が昭和二三年一二月二日自創法(編注・自作農創設特別措置法)一六条により宮城県知事から別紙目録(一)、(二)の本件農地の売渡処分をうけ同年同月五日その売渡通知書の交付をうけたこと、また宮崎県知事は本件農地のうち同目録(一)の農地を安達清四郎に対しても売渡処分をなし、また、同目録(二)の農地を守谷長吉に対しても売渡処分をなしたこと、そして宮崎県知事の登記嘱託に基づき昭和二五年二月一〇日同目録(一)の農地につき安達清四郎が、同目録(二)の農地につき守谷長吉がそれぞれ所有権移転の登記をうけたことは当事者間に争いがない。

二  しかして、本件農地につき右のように二重の売渡処分がなされた経緯等についてみるに、<証拠略>を総合すると、

(一)(1)  宮城県知事は昭和二三年七月二日、本件農地の内別紙目録記載(一)の農地を自創法三条に基づき行方こうから買収し、同法一六条に基づき売渡の時期を同日と定めて安達清四郎に対して売渡し、昭和二三年一二月五日売渡通知書を同人に交付したこと、

(2)  また宮城県知事は昭和二三年一二月二日、右の農地を再度、同法三条に基づき行方栄三郎から買収し、同法一六条に基づき売渡の時期を同日と定めて原告に対して売渡し、昭和二三年一二月五日売渡通知書を原告に交付したものであること、

(二)  宮城県知事は、昭和二三年一二月二日、本件農地の内別紙目録記載(二)の農地を同法三条に基づき右行方栄三郎から買収し、同法一七条に基づき売渡の時期を同日と定めてこれを原告と守谷長吉の双方に二重に売渡し、昭和二三年一二月五日売渡通知書を原告及び守谷長吉の双方に二重に交付したものであること。

(三)  そして、昭和二五年二月一〇日、自創法一六条による売渡を原因として前記(一)の農地につき右安達清四郎の所有名義に、同(二)の農地につき右守谷長吉の所有名義に所有権移転登記の嘱託をなした結果、右(一)の農地につき仙台法務局同日受付第二六五号をもつて、また右(二)の農地につき同日受付第二六六号をもつて、その旨の各所有権移転登記がなされたものであること、

が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

三  以上認定の事実によれば、別紙目録(一)の農地については、宮城県知事において、昭和二三年七月二日にこれを行方こうの所有として買収したうえ、これを安達清四郎に売渡し、その後同年一二月二日にこれを行方栄三郎の所有として買収したうえこれを原告に売渡し、また同目録(二)の農地については、同年一二月二日行方栄三郎の所有として買収したうえこれを原告と守谷長吉の双方に売渡し、その登記は同目録(一)の農地については安達清四郎名義に、同目録(二)の農地については守谷長吉名義に所有権移転の登記嘱託をなした結果右登記嘱託のとおりの所有権移転登記がなされるに至つたものであるところ原告は本件農地はもと行方栄三郎の所有であり、且つ本件農地につき耕作の業務を営む小作農で自作農として農業に精進する見込のある者は原告で本件農地の売渡をうける適格者は原告であつたから、原告に対する売渡処分は適法であるのに反し、宮城県知事が別紙目録(一)の農地を行方こうから買収したうえ安達清四郎に売渡し、また同目録(二)の農地を守谷長吉に売渡し、同人ら名義に所有権移転登記の嘱託をしてその旨の登記をなさしめたのは違法であつて、そのため本件農地は同人らに時効取得され原告は本件農地の所有権を喪失し、その価格相当の損害を蒙つたのであるから、国家賠償法一条一項に基づき被告に対してその損害賠償を求める旨主張する。

ところで、国家賠償法四条によると、同法による損害賠償の責任についても民法七二四条が適用されるものであるところ、民法七二四条後段によると、不法行為による損害賠償請求権は不法行為の時より二〇年を経過したときは消滅する旨規定されているので、右規定の趣旨について考えるに、同条後段の規定は、同条前段の三年の時効が損害及び加害者の認識という被害者の主観的事情の如何によつて左右される浮動的なものであることに鑑み、これを制限して被害者の認識の如何を問わず画一的にできるだけ速やかに法律関係の安定を図ろうとするにあるものと考えられるから、同条後段の二〇年の期間は除斥期間と解するのが相当であり、同条後段の右のような趣旨、性質に照すと、右規定の「不法行為の時」とは損害発生の原因をなす加害行為がなされた時をいい、右の加害行為がなされた時とは加害行為が事実上なされた時と解すべきであつて、当該加害行為のなされたことを被害者が認識した時或いは右加害行為によつて損害が発生した時と解すべきではないものというべきである。

これを本件についてみると、別紙目録(一)の農地につき安達清四郎に売渡処分がなされ、また同目録(二)の農地につき守谷長吉に売渡処分がなされたうえ、それぞれ同人ら名義に登記嘱託がなされその登記がなされたのが昭和二五年二月一〇日であることは前記認定のとおりである。

してみると、たとえ宮城県知事のなした右の各売渡処分及び登記嘱託が違法でこれが不法行為を構成するとしても、その加害行為は昭和二五年二月一〇日までになされたものであるから、遅くともそれより二〇年の昭和四五年二月一〇日の経過と共に右不法行為による損害賠償請求権の除斥期間は満了したものであるところ、本訴の提起されたのが右二〇年の期間を経過した後の昭和五二年四月一五日であることは記録上明らかである。

してみれば、原告主張の不法行為による損害賠償請求権は本訴提起前に既に二〇年の除斥期間の経過により消滅したものというべきであるから、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないものといわなければならない。

四  よつて、原告の本訴請求はこれを棄却し、民事訴訟法八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤和男 後藤一男 竹花俊徳)

目録 <略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例